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2010年02月10日

プールの底に眠る 白河 三兎

久しぶりにメフィスト賞作品を読んだが、相変わらず懐の深い、幅の広い賞だな、と思った。

本作は面白い。
面白いがミステリ色は薄い。
それとも、ミステリ色は薄いが面白い、なのか。

ただ驚きはあって、充分楽しませてもらっているので、やっぱり面白いのだなぁ。

人を殺さなくても、ミステリは書ける。

ラノベっぽいし、春樹の影響を多分に受けた人工的な語り方。
少し慣れは必要だけどプロットが実に妙。

高校生の僕、イルカ。友達の由利。
自殺しようとしていた少女セミ。
小学校時代のくろい過去。
13年後留置所にいる僕。
バラバラに投下された話が読み進めるうちにみるみる繋がっていく。
ん―見事。

「できることなら、僕はノコギリで右手を切り落としたかった。切った右手をカバ公園のカバの口に突っ込みたかった。」
ってとこがなんかすき。

プールの底に眠る (講談社ノベルス)


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2010年02月08日

この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 下 白石 一文

このタイトル、インパクトありますよね。
読み始めた頃は、山本周五郎賞候補でしたが、途中で受賞に変わりました。

上巻ではかなり読み進めるのに苦労しましたが、下巻はわりとおもしろく読みきりました。

この本は、小説?経済書?哲学書?
この人の作品はこれしか読んでいないので、どれもがこんな作風なのかわからないけれど、ジャンルにとらわれないという意味ではおもしろいんだと思います。

でも哲学的な部分については私には難しかった。後半は理解しようと努めるのを放棄してさっと読み飛ばしてしまいました。

というのも、「過去、現在、未来」にしばられるとありのままの自分を見失う、という考えをしたこともなかったし、自分を見失うということがわからなかったから、だと思います。

でもそれがどうも核だったようなので、数年たって人生の岐路にたった時にもう一度読むと感じることは違うかもしれないです。

それにしても残念なのは、「現在の経済格差は問題」というところは共感する部分であり、著者の結論を楽しみに読み進めていたのですが、結局よくわからなかった。そこが小説たるところ?

まあでも好みが分かれる作品なんだろうと思います。
読後は悪くなかったから星5つでもいいけど、ちょっと難解だったのとテーマが散漫していたように感じたところと主人公にいまいち感情移入できなかった


この胸に深々と突き刺さる矢を抜け〈下〉


タグ:白石 一文
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2010年02月06日

この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 上 白石 一文

『僕は必然の中で生きようと決めたんです。何かを選び取り自分の力で作り上げていく人生が虚構だとわかった以上、僕は人生の場面場面で自分にとって不必要なものを切り捨てていく人生を選択するしかない。』


人生というものは、言ってみれば手の中に握りこんだ数十個のパチンコ玉をいちどきに闇に向かって放り投げるようなものだと僕は思っている。

この一文が、妙に印象に残る。それは、上巻で提起されるエピソードが、あまりにも多岐に渡ることと無関係ではないだろう。
セックス、経済、政治、社内抗争、家族、労働、報酬、死生観、……
誰の人生も、多くの事項が複雑に絡まり合うことにより形成されている。そして、その人生がまた複雑に絡まり合って形成されるのが、社会であり世界なんだろう。
だが。


「僕は必然の中で生きようと決めたんです。何かを選び取り自分の力で作り上げていく人生が虚構だと分かった以上、僕は人生の場面場面で自分にとって不必要なものを切り捨てていく生き方を選択するしかない。未来にある理想の自己を目指して歩むのではなく、自己という現在状態を出来る限り保存し、継続していく人生を僕はこれから歩んでいかなくてはならない。足し算ではなく引き算の人生です。必然の中に生きると言うのはそういうことなんです。もうこれ以上自分に何かを上積みするのではなくて、余分な荷物をどんどん捨て去って、自分の本体と言うべき核心部分だけを持ち続けていく。いつガンが再発して死ぬかも知れない僕には、そんな生き方しか残されていないのだろうと思います」

彼は、何を捨て、何を残すのか。彼の核心部分には、何が残るのか。下巻で提示されるであろうそれは、きっと現時点での著者のその問いに対する回答になるだろう。 この胸に深々と突き刺さる矢を抜け

「これはセックスと経済の物語
 セックスは男が女にふるう根源的な暴力だ」


この胸に深々と突き刺さる矢を抜け〈上〉

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2010年01月31日

ほかならぬ人へ 白石一文

2つの話からなる1冊です。

「ほかならぬ人へ」
二十七歳の宇津木明生は、財閥の家系に生まれた大学教授を父に持ち、優秀な二人の兄を持つ、人も羨むエリート家系出身である。
しかし、彼は胸のうちで、「俺はきっと生まれそこなったんだ」
と感じている。
家族や周囲の反対を押し切ってスポーツメーカーに就職する明生。
そして、キャバクラで知り合った美人のなずなと結婚する。
しかし、なずなには結婚前からずっと好きな人がいて、夫婦の関係はギクシャクしはじめる。
そして明生は失意の中、職場の先輩上司に想いをよせるように・・。
「かけがえのない人へ」
グローバル電気に務めるみはるは、父を会社社長に持ち、同じ会社に勤める東大出の同僚と婚約を控えて一見順風満帆に見える。しかし一方でかつての上司・黒木ともその縁を切れずにいる。
主に黒木との関係を中心に描いている。みはるにとって、かけがえのない人とは・・・

残念ながら個人的には感情移入できなかったなぁ。。
評価は結構高いようだけれど。
この前に読んだ白石氏の「私という運命について」があまりに良かったもので。

確かに、それぞれ「ほかならぬ人」「かけがえのない人」に気づいていくのかもしれない。

でも、どちらの話もすごく安易に結婚を決めすぎているような気もした。

世の中の夫婦が、みな「ほかならぬ運命の人」と結婚しているわけではないと思う。
まぁ、作者が指摘しているのはそこなんだろうけれど。
でも実際に「この人が」という「しるし」を見つけられるのだろうか?
反対に言えば、みんな「この人こそ」と思って結婚しているんじゃないだろうか?

「この世界の問題の多くは、何が必要で何が不必要かではなく、
単なる組み合わせや配分の誤りによって生まれているだけではないだろうか。(中略)どうやったらそれぞれが『ちゃんとした組み
合わせ』になれるのだろう?」 ( 本文中より)

確かにそうなんだろうけれど・・・。

けれども、だいたいの男女は、タイミングやフィーリングで結婚を決め、それなりの愛情を持ち続けながら、時に忍耐を強いられながら暮らしていくんだと思う。

もちろん間違いのない「しるし」が見つかれば言うことはないのだけれど。
永遠の課題かな〜。

恋愛や結婚なんて人生の不必要経費だ。
だから、そんな呪縛の中で真実はみつからないよ。


ほかならぬ人へ

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2010年01月30日

廃墟に乞う 佐々木 譲

本屋の平台の上にあったので思わず買ってしまいました

この作者の作品〜エトロフ発緊急電以来、久々に読みました
 
北海道を書いて、さらに好きな警察作品を書かれているのに
今まで全然読んでなかったです

今作も北海道を舞台にした短編連作 
休職中刑事の事件簿って感じでした

 非常に読みやすかったです

北海道出身の小生にとっては地理的にも
モデルになった場所や会社も理解しやすかったです

タイトルにもなってる〜廃墟に乞う がよかったです
人間の切なさ感じました

なぜか永山則夫事件思い出しましたね

 佐々木さんの作品これから読んでいこうと思いました



廃墟に乞う



タグ:佐々木 譲
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2010年01月27日

私という運命について 白石 一文

“運命”という言葉とテーマ。
それと作者の独特な文章の書き方(元週刊誌記者だからというのもあるけど)が対照的。
対照的というか、運命という目に見えないあやふやなものを、理論的に書こうとしてる感じ。
でも、この書き方は好きです。

ある女性の29歳〜40歳までが書かれています。

“選べなかった未来、選ばなかった未来はどこにもない。未来など何一つ決まってはいない。だからこそ、一つ一つの選択が運命なのだ。私たちは、運命を紡ぎながら生きていく。”

この言葉が印象的でした。

『人は自らの意志で自分の人生を選び取ることができるのだろうか?』
をテーマに進む一人の女性の10年間が描かれた小説。

書店で平積みされていたのを見て唐突に手にとってしまったらレジへと並んでいて・・

女性の人生は男性に比べて選択肢が多い。
迷いが生じやすいのは尚のことで。
だからこそ何かあれば、現在の生活に至った「選択」がこれでよかったのだろうかと考えてしまう瞬間も多々あるのだろうわけで。

女性であれば必ずや、自分の人生と照らし合わせてみたりして、それぞれに何かを思わずにはいられない一作なのではと思う。



***

選べなかった未来、選ばなかった未来はどこにもない。
未来など何一つ決ってはいない。
だからこそ、一つ一つの選択が運命なのだ。
私たちは、運命を紡ぎながら生きていく。

(本文より)


私という運命について (角川文庫)

タグ:白石一文
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2010年01月26日

どれくらいの愛情 白石 一文

まったく知らない作家だったのだけど、
本屋さんで積んであって、帯にもいいことが
書いてあったので買ってみた。
読み応えがあるものを探してたので、
分厚かったのもポイントで。
(読んでみたら、中〜長編集だった)

そしたらば、深くて良かった。
最近、小説は誰のを読んだらいいのかわからなくて、
ぜんぜん読んでなかったけど、
ようやく見つけた、という感じ。

この表紙もなんかいい。

「二十年後の私へ」

「人間は誰かに幸福にして貰うことも、自分だけが幸福になることもできないのだろう。人間にできるのは、恐らく誰かを幸せにすることだけなのだ。」


「たとえ真実を知っても彼は」

五人の人間の深い繋がり。重たいです...


「ダーウィンの法則」

スキンシップの大切さ。
「ほんのすこしでも他の人間がやっていないことを先取りできれば、それで進化することができる。」


「どれくらいの愛情」

まさにタイトルの通り。
相手を曇りない目で見つめつづけることができているかどうか自問自答させられました。
「別の目的地に飛び立とうとしないのは、自分自身の運命を変えるには、たくさんの時間と努力、そして何よりも持続的な強い意思が必要だということを僕たち人間が嫌というほどよく知っているからなんだよ。」

私は四つの中で「どれくらいの愛情」が一番好きでした。


あとがきの言葉も印象的でした。

「自分とは何か?」という根源的な問いに真剣に向き合わない限りは、誰のこともほんとうに愛することはできないのである。
その意味で、自らを知らず、また知ろうともしていない者だけが、他人をやすやすと傷つけることができる。他人をいかなる形にしろ傷つけてしまうことは、たとえそこにどんな大義名分があろうとも、単に未成熟で愚かな行為でしかない。それは、他人を傷つける以上に自分自身を傷つけることでもある。


どれくらいの愛情 (文春文庫)

タグ:白石一文
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2010年01月25日

もしも、私があなただったら  白石 一文

舞台は博多。
 主人公は会社を辞めて、流行らないバーを経営するようになった49歳の男。
 貯金を食いつぶしながら、離婚して独り身となった自分の人生の来し方を思い返していたところに、粉飾決算の汚職で逮捕を目前にしたかつての同僚の、妻が訪ねてくる。
「あなたの子どもを生みたい」
 無碍に断ったが、彼女は離れずに・・・。
 全編に渡って描写が詳細に渡っており、同時代性を確信犯的に意識した文体には、知らずに引き込まれてしまう。
 最後の静かな三ページが、個人的にはとても良かった。

あとがきでいいこといってたなー
「メディアの報道をうけてイラクなどの惨状に心を痛める前に、自分の目の前にいる人間をどうやったら幸せに出来るのかを考えるほうが大事ではないか」
その通りです。いったいどうすればできるのだろう・・・?


もしも、私があなただったら (光文社文庫)


タグ:白石 一文
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2010年01月24日

心に龍をちりばめて 白石 一文

白石一文さんは エリートな経歴を持つ人だったような…

お兄さんの小説も ヒトツ気になってはいるけど
分厚い小説で敬遠してしまってます

一文さんの作品は『一瞬の光』ってので
気になる 作家さんになりました。
新作が出る度に 欲しくて 揃えたのに
まだ読めてない作品の方が多い状況…早く読まないと…。

確かに一気に読ませる引力はいつも通りあるんですが
色々な事件が起こる割に、なんだか心が震えたり、衝撃を感じる驚き
に欠けます。

女が産むこと 子どもが生まれてくる の絶対的な意味を書きたかったんだろうか。
そういう環境にあられるひとにとってこの小説は救いになるのか。
曽野綾子読んだばかりだからでしょうか、なんだか纏めたい感にしっくりこない・・・。

ただ以下の点には納得・・・。
・環境がそのひとの思考方式を作ってしまう。だからこそ、出会う人によって変えられる可能性もある。
・世間で「野心を持つ」と肯定的に取られ得る人間の ただ誰かの上に立ちたいだけというエゴ 
頭の良い人間は「論理(正義)」をいかにも創設できるから、ある種の説得力を持つ。それが怖いんだと思う。

・最終的に、人生においての社会的地位や価値観、どれをどれほどに重要視するのかは人それぞれであり、決定的な正解はないというところだと思います。
(これはいつものお話にも恐らく共通ですよね)
だから自らの肌で感じて頭で考える判断することがだいじ、と。
(結婚の場合、相手に何(どういう優しさや強さ)を求めるのか、それが自分にとっての普遍的な価値なのかを考えることは大事だと思う。)

30頁
『母の早苗が言っていたことがある。男の人はね、みんな生命力が弱いの。あの人たちはね、女が子供を産んで生きていくための道具なのよ。男ってほんとに便利よ。上手に使えば何でもしてくれる。
(中略)せっかく目の前にある便利なものを使わないなんて、損なだけなのに。』

74頁
『美人はなかなか幸福にはなれないの。それだけは肝に銘じておきなさい』

心に龍をちりばめて


タグ:白石 一文
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2009年10月25日

小さい“つ”が消えた日 ステファノ・フォン・ロー, トルステン・クロケンブリンク

小さい“つ”が消えた日
ある時、ちいさい“つ”は、他の文字から
「音を出さないなんて文字じゃない」と言われ、
“自分は大切な存在じゃないんだ”と思い込んで
姿を消してしまいます。
でも小さい“つ”がいなくなって世の中は大混乱。
影があるから光がに価値あり、
黒があるから白という綺麗な色もある。

沈黙があるからこそ、音があるのです。

失くす前に気付いてほしい。
この世に大切じゃないものなんて何一つないことを。


「君がいないと困るんだ」


今私がなんだかすごく聞きたい言葉。。。

音をもたないことをバカにされ、自分に価値がないと思いつめてしまう小さい“つ”。でも必ず使うときはくる。必要だからある。。。
すごくあったかいです(*^^*)
50音がそれぞれ一つのキャラクターとして描かれているんだけど、小さい“つ”はなんだかちょっと私っぽい。読みはじめで泣いてしまいました。


小さい“つ”が消えた日

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2009年10月16日

いきなりはじめる仏教生活 釈 徹宗

いきなりはじめる仏教生活

釈 徹宗さんの仏教入門本です。
「仏教的な考え方を身につけると、"こうでなくてはならない"という執着から多少自由になる」ことの例としての、桂ざこば師匠のエピソードが印象的でした.


これ、すごくおもしろい。デカルトとかリオタールも出てくる。まず、社会構造が煽る<自我のバブル>を苦しみの原因としたあとで、仏教の紹介にはいるが、これまた明解、わかりやすい。注もやさしく丁寧で、無知なじぶんでも興味を損なうことなく読めました。

 この世とか、あの世とか、愛とか、宗教とか、そういった「私たちが生きる上で必要な物語」は、ぜーんぶフィクションで、ウソで、共同幻想なんだ、でも、そうであるからこそ、それらを大切にするんだ、という仏教の姿勢に、いちばんシビレた。理屈ぬきでかっこいい。

 そう思ったぼくは、とりあえず、仏教生活をはじめてみようと、阿弥陀如来の像を部屋に置いております。


「自我の肥大に悩む現代人に、仏教の知見を手当たり次第活用して日常を生きる」

いきなりはじめる仏教生活 (木星叢書)


タグ:釈 徹宗
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2009年09月09日

官僚たちの夏 城山 三郎

天下国家のために全力を尽くす人と、
どこか冷静で自分のことも考えながら着実にこなす人、
どちらも正しいし、どちらも何か違うのかもしれません。
情熱だけで進めても、
外部の政権争いや業界団体の意向でうまく行かないし、
ただ仕事をこなしていくだけでは、
国を変えていくことは出来ない。

一気に読んでしまったんですが、
結構、冷静に読み進められた気がします。


通産省は白洲次郎さんがその創設に関わったりしていて、主人公の生き方が白州さんと重なって見えたのは私だけではないのだろうと思います。


「離れること、忘れることの難しさ」
仕事ってこういうものなのかも知れません。
余人をもって代えがたいとはこういう人達の事を言うんだと思いました。



官僚たちの夏 (新潮文庫)



タグ:城山 三郎
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2009年09月06日

落日燃ゆ 城山 三郎

東京裁判で唯一文官として処刑された広田弘毅の話。
「自ら計らわぬ」を身上とし、不遇の若い時代から外相、首相を務め、戦争に巻き込まれていった生涯が描かれている。

常に与えられた場所で最善を尽くし、最後は裁判で弁明もせず戦争への責任を認め、自らの和平外交を妨害した軍人達と一緒に処刑されていく、という生き方は清々しくもあり、やりきれなくもあり。

統帥権の独立を認めた”長州の作った憲法”、現地の動きを制御できない軍中央部、などなどこの時代の組織は恐ろしいほど不備だったのだと思い知らされる。そのために(この小説ではあまり描かれないが)多くの人が亡くなり、いかに大きな犠牲を払ったことか。。
改めて、シビリアンコントロールの大切さを痛感。

歴史物としてだけでなく小説としてもこの本は楽しめる。広田を取り巻く人たちが生き生きと描かれていて、逸話も効果的に挿入されているので、人間ドラマとしても興味深く読めた。特に、ライバルだった佐分利との境遇の差、そして佐分利の不審死、また外交官同期であった吉田茂との対比が詳細に描かれており、面白かった。




落日燃ゆ (新潮文庫)



タグ:城山 三郎
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2009年09月05日

思考の整理学 外山 滋比古

小説とは違いますが今話題の本という事で

『思考の整理学』とタイトルは仰々しいですが、著者の分かりやすい例え話などを用いた語り口でスラスラと最後まで読めました。

内容は、良い考えを生む為の方法論、実践論と言ったところではないでしょうか。
殺人的に溢れる情報から自分の中へ絶えず刺激を与える事によって、いろいろと浮かんでは消えていく『思考』達をもっと効率良く、1つのパターンに昇華させる事が出来たら、将来的に非常に強い武器になると思う。

私たちの「考える」という営為は、往々にしてその実体を掴み難い。それは非常に個人的な営みであり、さらに体系化が困難だからである。本書は、その整理の方法を提案する。

「提案」と言っても、それは本書がいわゆるハウツー本であるということを意味しない。むしろ「考える」ということの意味を「考える」ことに主眼が置かれている。日本の近代において重視されてきた教育の方法は「知る」≒「記憶する」ということであり、さらにそれを「再生」することであった。しかしコンピューターの出現によって人間はその分野においては敗北した。その結果、人間には「考える」ことが求められるようになったのである。

著者は思考に拡散的作用と収斂的作用があるとする。そのうち、創造的であるのは後者である。もちろん前者においても「まったく同じ」思考がなされることはなかろうが、それほど個性が表れるわけではない。それに対して後者はより抽象的な思考であり、決してコンピューターには不可能なことである。これまで前者ばかりを重視してきた人間には、この時代になって後者が強く求められるようになってきた。

私たちは学校教育において「覚える」ことを教えられてきた。しかし、それだけではもはや現代を生き抜くことが不可能である。覚えるだけならばコンピューターに任せればよい。私たちが人間でなければならない理由は那辺に求められるのか。それを本書は私たちが「思考」によって導き出すことを要請しているようである。思考とは、人間の存在根源の最も本質的なものであるのかもしれない。




思考の整理学 (ちくま文庫)




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2009年09月02日

すごい弁当力!―子どもが変わる、家族が変わる、社会が変わる 佐藤 剛史

すごい弁当力

レシピ本ではないです。お弁当=母であり、運動会の思い出であり、食べる人の事を考える愛であり、段取り力であり、楽しさである。弁当が持つ力は世界をも変えるんだ!という壮大なテーマを、いろんな方の体験談を元に書かれた本であります。
ある地方の学校で始められた「弁当の日」。いつもはお母さんが作ってくれるお弁当を、その日だけは、一からつまり買出しから、お米研ぎからやって全部作ろうという日があります。子供はお弁当作りを通して、母の愛情を感じ、また毎日の大変な作業に感謝するという意図があります。また副作用として、次の日早起きしなきゃいけないから、夜早く寝る。とか、友達に負けない個性あふれるお弁当作りの為に、キャラ弁や似顔絵弁当などの工夫が見られたり。またやはり最初は作り方が分からないので、母親との会話が必然的に増えたり・・・いいことづくめです。
この弁当の日が派生して、いまや全国500校がこれを取り入れて実際にやっているとの事。また、大学生や社会人の間でも「弁当男子」に象徴されるように、お弁当ブームがきているらしいです。お弁当って結構段取り力が必要とされますよね?だから社会人の基礎力向上にもいいし、会社の仲間とお弁当仲間ができて、タバコ仲間同様、良いコミュニティーができているそうな。
でも何より、「お弁当=母」という事で、お弁当にまつわるエピソードがいろいろ紹介されていて単純に泣けました。
「お母さん、ありがとう」


すごい弁当力!―子どもが変わる、家族が変わる、社会が変わる

タグ:佐藤 剛史
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2009年07月30日

誘拐児 翔田 寛

第54回江戸川乱歩賞を取った作品なので読んでみた。

戦後の中、誘拐された子がいた。
身代金の受け渡しに失敗、子供は行方知れずに。
その15年後、死の間際の母から
オマエは誘拐してきた子だと言われ
翻弄される男。

愛情そそがれていただけに
その言葉が男を混乱に落とす。

15年前の事件が忘れられなく
事項間際まで事件を追う刑事。

男を心配する彼女。


後ろに審査員の作家がいろいろ酷評していたけど
意外とミステリー色が弱かった気がする。
色々登場人物はいるんだけど
なんか背景が薄いような・・・・

ちょっと期待してただけに残念でした。



誘拐児

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2009年07月23日

野ブタ。をプロデュース 白岩 玄

第41回文藝賞受賞作。
第132回芥川賞候補作。阿部和重『グランド・フィナーレ』との決選投票の末、落選。

芥川賞に関しては綿矢りささんの「蹴りたい背中」で受賞なら、これも当然受賞されるべきだと思う。少なくとも「蹴りたい背中」より思考が成熟してます。

基本的には面白い小説ですが、やや御都合主義が目に付きます。「プロデュース」が上手く行き過ぎ。

最後は自分の「プロデュース」に失敗しながら、それでも「プロデュース」せずには生きられない桐谷修二。答えになってるのか?作者の本音が見えない。
良いように解釈すると、作者はこの作品で自身をもプロデュースしていると言う事でしょうが。。。

人は誰でも少なからず自分を「プロデュース」しながら生きている。
人から「こう見られたい」自分を演じているはずである。
それによって桐谷修二は自分が「見えなく」なっていく。
本当の「自分」が分からなくなっていく。。。

って、本当の「自分」って何だ?そんなもん始めからね〜よ。
人の前で「演じてしまう」自分も本当の自分だし、本音を語ってる「自分」を誰が「演じて」いないと断言できるんだ?

90年代に流行った「(見つかるはずも無い)自分探し」から多少脱皮している作品なのでしょう。



野ブタ。をプロデュース (河出文庫)

タグ:白岩 玄
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2009年07月12日

天国はまだ遠く 瀬尾 まいこ

自殺を考えた主人公千鶴が訪れた民宿たむら。

そこには都会に住んでいる千鶴にとっては、非現実的な田舎暮らしがあった。

現実から逃げるための自殺願望は
いつしか田舎暮らしへの順応で消えていた。

きれいな空気、おいしいご飯。
都会では味わえない生きた心地。

「一応教えてくれな、あんた死んだん知らんと、俺、夕飯とか作って待っとったら空しいやろ」

田村の無造作だけどどこか響く言葉・・・

しかし、いつまでもここにいてはいけない。
千鶴の感じた違和感はどこに行き着くのか・・・

あっという間に読んでしまえます。




天国はまだ遠く (新潮文庫)



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2009年05月11日

赤朽葉家の伝説  桜庭 一樹

以前情熱大陸で出ておられ桜庭一樹さん自身に興味があり手にとった一冊です。直木賞受賞作品の「私の男」よりもこちらを選んだのは 真っ赤な葉っぱが強烈なインパクトだったからなぁ…(´ω`)
お話は山陰地方にある製鉄を生業とした旧家の祖母 母 娘と三代に渡る旧家赤朽葉家の女達の話です。祖母 万葉には近代社会となる前の日本が時代背景としてあります。ちょうどもののけ姫の世界と時代背景は似てる気がします。山の娘 とか辺境の人とかいった神聖さを醸し出すワードがちらほら。万葉自体にも神かかった雰囲気が読み手にも充分伝わります。ちなみに万葉は千里眼の持ち主で未来をかいまみえる力をもってます。
ちょこちょこに時代背景の描写が詳しく入るので あぁ あの時代かぁ と想像出来るので 読み手自身も作品の世界観を作ることが出来ました。
母の毛毬は丙午の女なので荒々しく燃え盛り その娘 瞳子は旧家の娘なのにニートと無気力な日々を過ごす現代の若者です。 激動の時代を生きた万葉 毛毬 そして現代の瞳子 達は製鉄のシンボルであった熔鉱炉の始まりから終わりの様に見えました。

他の人が言ってる様にちょっと最後の謎解きで失速したかの様な気もしなくはなかったですが 今の無気力な世に生きる瞳子が少し頑張って前向きになっていく様とリンクさせてるのかなとも思いました。

人物の名前がとても個性的なのも面白さの一つです。


なにも考えることなく、残ることなく。
なにかをつかもうともがくのをせせら笑うように流れゆく言霊。
つかもうとすること自体、古い時代の人間であることなのかもね。
まさに、現代な小説。
天晴れです。
最後、変にまとめて欲しくなかったかも。




赤朽葉家の伝説




タグ:桜庭 一樹
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2009年05月09日

私の男 桜庭 一樹

手足の長い痩身を安物のスーツに包んだ
40歳の腐野淳悟(父)は、傘盗人なのに
落ちぶれ貴族のように優雅だ。
いっそうつくしい、と言いきってもいいとさえ花には思えた。

花は小学4年のとき災害で家族を亡くし、淳悟のもとに引き取られて養女となった。北の町で暮らす二人が、ある出来事を経て東京へ転居し、花は24歳になって、明日、結婚しようとしている。

越えてはならない一線を越え、身も心も絡め合うようにして生きてきた父と娘の過去に遡る衝撃の物語。

さすが直木賞受賞作!!!
父と娘の近親相姦がテーマですが、二人とも稚拙で幼く、
ある意味ストレートで無自覚のまま、愛を貫いています。

どうか暖めあって生きていくために、
普通の父娘の愛情の量ではとても足りなかった。
自殺しないために、生きてくために
倫理を超えた関係が生まれていった。

なんていうか結局、どうしようもなく孤独で、
私たちはお互いに唯一無二の、魂から結ばれた存在だから、
近親相姦しちゃっても人殺ししちゃっても、
結局は愛し合ってるからいいでしょみたいな。

二人の絶望的な孤独感とか、
物悲しさが理解出来ない訳じゃないけど、
本当にこの父娘は身勝手で、
二人で一つな自己完結しちゃってます


そしてこの本は、それぞれの章で主人公が異なり、
その人物の一人称で語られています。

過去に時間を遡りながら物語が進むので、
従来のようにラストシーンを期待する小説ではないのですが、
それならば、父がどうしてこんな人間になってしまったのか、
もっと種明かしというか、描ききる必要性があると思う。

尾崎だって、二人の奇妙な関係はうすうす感じていたはずなのに、
そんな花の何がよくて結婚したのかよく分からないし、

花も惇梧と離れたくなくて、殺人を犯したくらいなのに、
なぜあっさり尾崎と結婚したのか不明
それなら、二人も人を殺めてしまう必然性があったのかなとか。

捕まらず簡単に逃げきれていることも不自然だし、
全てにおいて違和感が拭えない

私はやっぱり死んだように生きる人間より、
罪を犯しながらも社会に生きる主人公を見たかったです。


重いテーマながら一気に読んでしまいました。

なんとも、濃密な作品。

いや、濃厚な作品と言うべきかも。

現代から過去に遡ることで
より一層、濃密度がUPしてるような気さえ。。。

人を殺してまで自分達の生活を守りたかった
2人。
9歳からカラダの関係を続けてきた父娘。。。

男と女の関係の濃密な描写が凄まじかったです。

簡単に言ってしまえば近親相姦の話なんだけれど
キモチワルイ、とか吐き気がするとかは
そこまで感じませんでした。

むしろ、セツなかったり、この2人にとっては
当然だろう、と。

骨になるまで一緒になる、と決めても
それはイケナイと、どこかで分かってたから
花は淳悟と全く違うタイプの人と
結婚をして離れる決心をする・・・

それを見届けた淳悟はどこかに
行ってしまうんだけれど・・・

淳悟は花と分かれてどこに行ったんだろう。。。
生きていけるのだろうか・・・

花も幸せになれたのだろうか。。。

その後が気になったり、解決しないままの
謎が残ったりしますが
でもモヤっと感はありませんでした。

むしろもう1回読みたいし
今でもココロに残ってます。


私の男






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2009年05月06日

一瞬の風になれ 第三部 -ドン- 佐藤 多佳子

陸上競技に一生懸命な高校生たち。
練習、試合、結果、怪我、才能、努力、孤独、仲間。
スポーツに打ち込んだことのある人なら、
きっと誰もが感じたことのあること。

だけど、ここに描かれている世界はとても尊い。
そして、こんな世界を心のすみにでも持っていることが
とても大事なことに思えた。


「神谷くんのほうが、すごい」
 妙にきっぱりといった。
「あんな大きな才能のある人に届こうとしてる。いつも前を向いて、上を見て、一生懸命やってる。あきらめたりしない。可能性……って言ってくれたよね、私に。長距離の練習がどんなにきつくても、神谷くんのその言葉を思い出して頑張れるんだよ」

 人生は、世界は、リレーそのものだな。バトンを渡して、人とつながっていける。一人だけではできない。だけど、自分が走るときは、まったく一人きりだ。誰も助けてくれない。助けられない。誰も替わってくれない。替われない。この孤独を俺はもっと見つめないといけない。そこは、言葉のない世界なんだ――たぶん。


一瞬の風になれ 第三部 -ドン-

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2009年05月05日

一瞬の風になれ 第二部 佐藤 多佳子

1年生から2年生になった。
陸上のお話。

4継(100M×4人)
がこんなに面白いなんて。

陸上って個人種目だけど、
「部」である以上チームなのね。

そして人なんだからいろんな
人間関係の上に成り立っているのね。


今の自分は完璧じゃない。
理想どおりじゃない。
でも、今やれることは全てやるんだ。
可能性がある限り。
そして、可能性を高めていくんだ。

青春って言葉がぴったりのお話。
自分の中高時代を懐かしみ、
ちょっと戻ってみたい。
と思った。

第三部、早く読みてぇ!


一瞬の風になれ 第二部

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2009年05月04日

一瞬の風になれ 第一部 --イチニツイテ 佐藤 多佳子

陸上競技のスプリンターを主人公にしたお話。
世の中には単行本や漫画、ノンフィクション等も含めて陸上競技を題材にした本はいくつもあるけど、ほとんど長距離もの・マラソンもの。
それだけにこの「一瞬の風になれ」は非常に画期的な内容だった。

陸上競技を知らない人は、陸上競技に興味が持てる。
陸上競技を始めようとしている人は、陸上競技をもっと好きになれる。
本格的な陸上競技選手は、モチベーションが上がる。
某マンガのように上っ面だけの陸上競技ではなく、誰もが「これが陸上競技!!」って思える本格的な内容。
チームメイト、ライバル、恋愛・・・と色んな要素もあり、読んでいても飽きない。

誰にでもオススメできる一冊。


一瞬の風になれ 第一部 --イチニツイテ--

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2009年04月28日

ナラタージュ 島本 理生

ずっと想い続けていたひとと交わした熱い瞳、もう、この恋から逃れることはできない--早熟の天才、少女時代の最後を傾けつくした、絶唱というべき恋愛文学。

評判がいいのを知っていたので、期待して読んだんだが。
期待しすぎると、得てして「うーむ」という結果になってしまうものだが。
確かになかなかいい作品で、好感高し。

単純に言うと、先生と生徒の恋だけど。
両想いなのに、先生が何故か受け入れないのです。
もう卒業してるから問題は無いのに。
その先生の何考えてんだか分からない、ある種の無気力っぽい部分に、凄く惹かれてしまった。むかつくけど。

結局最後に一度だけ、結ばれるんだけど
「この先もう誰と寝ても同じように満たされる事はないのではないか。それとも今日この午後がすべてとなって、その余力で残りの一生を、セックスを持ちこたえていくのではないか。」
っていう文の、絶望感にやられた。
小説読んで泣く方ではないんだけど、ちょっと泣きそうになった。

二度と出会えないような相手で、相手も同じくらい自分を愛してて、でも何故か一緒にいられない。このもどかしさが・・・。
明確な理由は描かれていないし、そこがいいんだけど。
でも先生は何故結局元妻と、よりを戻して、主人公もそれを不思議に思わないんだろう。
愛し合ってるのに・・・深いなあ。

小野君はかなり嫌でした。
生理的に嫌。


ナラタージュ (角川文庫)

タグ:島本 理生
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2009年04月14日

犯人に告ぐ  雫井 脩介

人間臭く、深みのあるストーリーでした。
読み始めてすぐに事件の展開から目が離せなくなり、一転して時間が流れて新しい事件が描かれ始めてからは、新旧の事件がどう絡んでくるのかどうかでワクワクし、読み終えてみれば、一番重点を置いて描かれているのは事件や解決のプロセスではなく、巻島史彦の仕事人としての生きる姿なのだと感嘆しました。
けど、こんな風に事件を背負って生きるのだとしたら、刑事って並大抵な神経じゃできませんね。
けど、そのくらいの覚悟で事件と向き合って欲しいと思うのは、無理無謀な考えなのでしょうか?

一番胸に残った台詞は…
「痛そうじゃないから痛くないんだろうと思ったら大間違いだ…それは単にその人が我慢しているだけですからな」
昨今、これを知らない人が大小を問わず事件を起こしていると思う…。





犯人に告ぐ〈上〉 (双葉文庫)
犯人に告ぐ 下 (2) (双葉文庫)

タグ:雫井 脩介
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2009年04月06日

100万回生きたねこ 佐野 洋子

大人になって読み返して、100万回生きたねこは、実は100万回生きていなかったのかと気づきました。

白いねこと出会って初めて死んだねこは、このとき初めて生きたんだ。
死ぬから、生きられるんだな。
いや、生きるから死ぬのかもしれない。


でも現実では、死ぬけど生きられないかもしれない。
生きながら生きられない

生きよう
ねこと違うのは、わたしたちが生を選び取ることができるということ
生を選び取れない状況にあるひとと結びついていける可能性を、その中で互いの生を拡げていける可能性を、たとえわずかでも持っているということ


100万回生きたねこ (佐野洋子の絵本 (1))

タグ:佐野 洋子
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2009年03月24日

聖域 篠田 節子

 10年以上前、講談社から単行本、文庫本がそれぞれ出版されたが、現在では古本でしか入手できない状態のため、集英社から再発売された作品です。

 日本の小説は、いわゆるキャラ萌えで読ませる作品が多いのですが、篠田節子の小説は非常に珍しいことに、キャラクターには頼らない傾向があります。
 主人公がはっきりしない(物語の流れ、あるいは町などが主人公となり、あえて人間の主人公は置かない手法をとっている)作品や、登場する人間ことごとく個人的にはおつきあいしたくない魅力のない人物ばかりといった作品も珍しくありません。

 しかし本作では、物語の冒頭いきなり死んでしまう女性ライターが、実に魅力的に描かれています。
 それゆえ彼女を思う編集者の気持ちが誰にでも切なく辛く共感でき、だからこそ主役の女性作家の能力の恐ろしさ、やるせなさが実感できるという構造になっているのです。

 いつも通りの迫力ある描写に、共感できる登場人物を得て、これは篠田節子の最高傑作と言っても過言ではないと思うのです。


タグ:篠田 節子
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仮想儀礼 篠田 節子

信仰心ではなく、あくまで金儲けのために宗教を作り上げる。

上下巻に分かれる長編だけれども読みやすくどんどんはまっていく感じ。実際の宗教に関する情報は自分自身ほとんど知らないんだけれど、著者はこの作品のためにかなりの調査をし、それをこの作品に反映させている気がした。

教団が拡大していくにつれ、単なる金もうけの話に終わらず、そこに関わる多くの人たちの生活に大きな影響を与えていく。

結果的に教団自体は壊滅してしまうのだが、またその部分の展開も予想外の状況に陥り、興味深い。



タグ:篠田 節子
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2009年03月09日

暗夜行路 志賀 直哉

仕事も女性関係もうまくゆかない主人公。

逃げるように出てきた旅先の地で兄から一通の手紙を受け取る。

そして、自分が今は亡き最愛の母と幼い頃から嫌悪していた祖父の間に生まれた子だったということを知る。

ひどく落胆した主人公は一眠りしてから兄に返事を書いた。



「書き終わると、彼は完全に今は自分を取りもどしたように感じた。彼は立って柱に駈けておいた手鏡を取って、自分の顔を見た。少し青い顔をしていたが,其処には日頃の自分が居た。亢奮から寧ろ生き生きした顔だった。何という事なしに彼は微笑した。そして「いよいよ俺は独りだ」と思った。彼には自由ないい気持ちが起った。」



自由と孤独は表裏一体だけれど、こんな風に思えたらなんて素敵だなと思った。

なんだか心強くなった。

畳み掛けるような短文が、淡々と簡潔ではあるけれど、次第に熱を帯びてくるように感じられるところが好き。


タグ:志賀 直哉
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小僧の神様・城の崎にて 志賀 直哉

志賀直哉の中期短編集。

私小説的なものが数多く収められている。


日常生活の中で起こる体験をベースに愛の葛藤や死生観を透明感のある文体で綴っているので非常に入り込みやすい。

芥川龍之介や夏目漱石を唸らしたという文体の妙技にはなるほどと思わせるものがある。


一つ一つに作者の生活の中で体得した哲学のような倫理観が織り込まれていて一にも二にも旨味を感じられる作品だと思った。



個人的には、その倫理観の内で
「誤解や曲解で悲劇を作り出す事ほど馬鹿げたことはない」というのが好き。
やはり正直は善行だよね



タグ:志賀 直哉
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2008年06月16日

枕女優 新堂冬樹

整形や枕営業などのあらゆる手段を駆使して、
トップに上り詰めた女優の苦悩について書かれた本!

アイドルとか声優アイドルとかの世界は、
こんなものだろうと思っているので、
特に驚きもしませんが、
ますます芸能人がキライになりました!

小説の中身はイマイチ…
オチもないし、途中で大きな展開もない。
ドキュメントのような感じです!

タグ:新堂冬樹
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2008年06月14日

坂の上の雲 司馬 遼太郎

 読了!日本人が〈国民としての)日本人として参戦した初めての総力戦だったということを感じる。
 海軍においては、ロシア極東艦隊を撃破するには及ばないものの黄海海戦において勝利し、残存兵力を再び旅順港に追い返すことができた。
 陸軍においても辛勝に次ぐ辛勝でかろうじてロシア軍を沙河まで追い返すことができた。
 
 著者は、しばしば海軍と陸軍との比較、太平洋戦争当時の軍部との比較を展開している。その上で日本軍の兵力、火力がいかに劣勢であり、それをどのようにして戦闘が過酷であったか、またいかに偶然、幸運が日露戦争を戦勝に導いたかが詳細に描かれている。維新後30年余りの苦悩と日本人の大量の血が、今日の日本の礎になっているのだろう。















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2008年06月13日

ライ麦畑でつかまえて J.D.サリンジャー, 野崎 孝

「世の中に不満があるなら自分を変えろ、それが嫌なら耳と目を閉じ口をつぐんで孤独に暮らせ」

これを読まずして何を読む!っていうくらい超名作

永遠の青春小説と名高く、一方JFK、J.レノンを暗殺した犯人が胸ポケットに入れていたという、今なお禁書リストに名を連ねているいわくつきの小説でもあるw

神妙な話をしながら鼻掘じくってるSpencer先生
他人の悪口ばっか言ってる歯を磨かないニキビ面のAckely kid
誰もがてめえの頼み事を聞いてほしくてたまらないと思いこんでる自惚れ野郎のStradlater
Toilet seatくらいに繊細な心の持ち主、Earnest
映画スターを捜しに上京してきたらヴェンダールームの田舎娘三人組
ガチホモのAntolini先生


ちなみに一番嫌いな奴はStradlater
顔が良くて、小回り効きそうで世渡りうまそう
ジェラシーだね
馬鹿なんだけどね

なんか憎めない奴がAckely kid
こいつは先が見えてる
典型的な村八分人間
同情する
ラヴェンダールームの馬鹿女達も憎めない
単純すぎて、馬鹿すぎて、いい具合にスノビッシュ

野崎訳を激しくお勧めします
ちなみに村上訳は、ちょっとやり過ぎかな
完全にサリンジャーの世界をぶち壊してる
Fuck Youの迷訳は大好きだけどねwwww

野崎訳を読んだら原書も読んでみて下さい

とにかく、
私の世界で一番好きな小説はこれ


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2008年06月12日

そうか、もう君はいないのか 城山三郎


「50億の中でただ1人 おい、と呼べる妻へ」との帯を見て手にした作品。
 彼女なくして彼は存在しえなかった、と言うことを知らしめてくれる。
 夫婦とは、また魂の寄り添う者とは を教えてくれる作品。


タグ:城山三郎
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2008年01月25日

アサッテの人 諏訪 哲史

アサッテの人
文字が大きめで、量もほどほど。読みやすい。

「ポンパ!」という言葉が気になって
どんどん読み進めていった。

最初の風景描写はちょとうんざりするが、
途中から、ユーモラスな文章に
どんどん引き込まれていく。

そして、最後の最後になって、心を揺さぶられた。

悲劇と喜劇はコインの裏表。

ユーモアの中に、
どうしようもなく胸をしめつけるような
人間の悲しみが描かれている。

好きな作品です。




タグ:諏訪 哲史
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2007年04月27日

しゃべれどもしゃべれども 佐藤 多佳子

しゃべれどもしゃべれども
主演:国分太一で映画化された原作本。

歯に衣着せぬ物言い、世間体を気にしない行動。
でも恋した相手にはとたんに不器用になるという
若手の落語家が主人公。

どもりに悩む従兄弟に、リハビリとして落語を教えることになったが
ひょんなことから、いつしか生徒四人の落語教室になる。

人前でしゃべるのが超苦手なわけあり風の美女。
大阪から東京へ転向してきたが関西弁を話すためにいじめられている小学生。
プロ野球を引退、解説業で生きていくしかないのに上手く言葉が出ない元ホームランバッター
そしてどもってしまう従兄弟。


落語を通してそれぞれが問題を克服しようとする姿や
本音をぶつけるやりとりがテンポよく爽やかに描かれる。

登場人物が多く、キャラクターが濃い。
寅さん的な安定感と王道感の漂う一冊。

書き文字ながら、落語のリズムと大げささが
伝わる作品だと思います。


しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)

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